第1話:苦手な優等生

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「必死って、何か理由があるのか? 」 「高山ちゃん、副担任なのに知らないの?」 副担任であっても、 西森とは「説教」以外のちゃんとした会話を 交わしたことが無いからな。 「夏菜、本当は高校受験の時、 某有名私立高校を受験する予定だったんだけど、 インフルエンザにかかっちゃって受験できなかったんだ」 「で、仕方なく『すべり止め』の うちの県立高校に来たわけなんだけど、 本当にショックだったみたいで、 入学式の時とか明らかに暗い顔してたもん」 「だから、大学こそは第一希望の所に行きたいから 1年の時から猛勉強しているわけなんだよ」 「おまけに、夏菜の親が これまたものすごい『教育ママ』で、 成績が少し下がったぐらいでも めちゃくちゃ怒るみたいだから、怖いよね~」 ペチャクチャしゃべる女子達の会話を聞いて、 「なるほど、そういうわけがあったんだな」 と納得した。 西森は「自分のため」、「親のため」に どうしても第一志望の大学に合格したいんだ。 そのために休み時間中も遊びにも行かず 勉強一筋でがんばっている。 確かに、勉強は大事だ。 必死にがんばっている西森はスゴいと思う。 でも・・・あいつの青春時代、 勉強だけで終わらせるのか? 今しか経験できないような楽しい時間が、 学生時代にはあふれかえっているのに・・・ おれは思わず女子達に聞いてみた。 「じゃあ、西森は恋愛とかの経験もないわけ?」 やべっ! 別に深い意味は無いのだが、 先生の立場であるおれが言うと、 なんか変な意味にとらわれかれない発言だ。 しかし、女子たちはさほど気にしてなかったみたいで、 「夏菜に恋愛?そんな浮いた話、一度も聞いたことないよ。 夏菜自身も恋愛なんて興味ないんじゃない?」 と軽く返してきた。 その辺の本当のことは 西森自身に聞いてみないと分からないだろう。 もしかしたら好きな人の1人や2人ぐらいいたかもしれない。 でも、本当に「勉強」だけの人生を 過ごしてきたのだったら・・・ この時、ふと考えたことが 今後のおれの人生の歯車を大きく狂わせることになるとは、 今のおれには知る由もなかった。
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