第2話:気になる気持ち

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第2話:気になる気持ち

「おれの課外授業を受けてみないか?」 と、バカげた発言をしてしまい、サーッと顔の表情が青ざめていく。 やばい! どうしよう!? なんか「課外授業」って言葉、 『いかがわしい系』のマンガや小説のタイトルで よく見かけるような気がするけど、 西森もそう受け取ってしまったのだろうか!? 頭の中が混乱し、上手い訂正の言葉も全く思い浮かばない。 すると、「先生」と西森が声をかけてきた。 「は、はい!?」 返事をした声は、緊張のあまりちょっと裏返ってしまった。 西森は何を言うつもりなんだ? ドキドキしながら返答を待っていると、 「私、先生から課外授業受けないといけないほど、 地学の成績悪くないと思うんですけど、受けないとダメなんですか?」 と、『課外授業』をまともに受け取った『優等生的発言』が返ってきた。 ハハハハ・・・ そうですよね、 「課外授業」って聞いたら、普通の生徒ならそう感じますよね。 こっちは、必死でアレコレ考えていたのに、 西森は「課外授業」を本当の授業のことだと思っていたようだ。 一気に拍子抜けした。 でも、ま、よかったじゃないか。 変に勘違いされなくて。 よかった、よかった・・・ 安堵した気持ちと同時に、 西森に気づいてもらえなかった「残念」な気持ちが、 自分の中で入り乱れる。 心のモヤモヤが止まらない。 でも、もう本当のことを伝える勇気はなかった。 これ以上、西森の呆れた顔を見るのが怖かったんだと思う。 「だから、これでよかったんだ」 と自分で自分に言い聞かせていると、再び西森の携帯が鳴った。 「また母からです。 いい加減帰らないと、ほんとに叱られるので帰ります。 あ、望遠鏡の修理費の話などは今度にしましょう。」 西森がまだ修理のことを気にしていたので、 「修理のことはどうでもいいから、とりあえず家まで送らせてくれ」 と言って、壊れた望遠鏡を放置したまま屋上を後にした。 時計の針は10時を指している。 この付近は住宅街のため、 今の時間帯、外を歩いている人は誰もいない。 駅に電車が到着する時間でもないので、 帰宅者の姿もほとんど見かけなかった。 そんな暗い夜道を、おれと西森は黙ったまま歩いている。 身長180㎝のおれに対し、 西森の背の高さは160㎝ぐらいだろうか? 2人で並んで歩くと、西森が小さく感じた。 さっきからお互い無言状態なので、何か話題を切り出して、 この気まずい沈黙を破りたかったが何も思い浮かばない。 また変なことをしゃべって再び失言するのが怖かったのだろう。 「あ、家が見えてきたので、ここで大丈夫です」 おれのマンションから歩いて2~3分の場所に西森の家はあった。 ほんとにこんなに近くだったんだな。 西森は、 「送って下さって、ありがとうございました」 と言って、家に向かって歩き出した。 が・・・急にクルッとこちらに振り返ると、 「先生、さっき言っていた「課外授業」のことなんですが、 あれって地学の課外授業のことだったんですか?」 と、突然聞いてきた。 え!? なんで急にそんなことを言い出すんだ? さっきはあんなにサラッと受け流したくせに!? やっと落ち着きを取り戻していた心臓が、またドキドキ高鳴り始める。 「いや・・・その・・・、あれは・・・」 おれが明らかに動揺しているのを見て、 西森は家に向かっていた足を止め、再びこちらに近づいてきた。 「その表情、やっぱり地学の課外授業じゃなかったんですね。 じゃあ、課外授業の本当の意味を教えてくれませんか?」 いつもの勝気な顔でおれの目をまっすぐ見つめる。 眉間にシワを寄せ、ちょっと怒った表情だが、 でも、なんか・・・怖くない。 西森の頬が・・・少し赤い? 街灯の光だけじゃよく分からないけれど、 でも、なんかいつもと違う。 え?なんで? なんで急に課外授業のことを蒸し返してきたり、 そんなかわいい表情で、おれのことを見つめてくるんだ? ますます、どうしていいか分からなくなるだろう! 本当のことを言うべきかどうしようか悩んでいたその時、 「夏菜!」という声が飛んできた。 その声に西森がとっさに反応する。 「お母さん!?」 「お、お母さん?」 顔を上げると、 西森の家から女の人が1人飛び出してきた。 西森が『お母さん』と呼んだから、西森の母親に違いない。 とてもキレイな人だ。 でも、目の印象がとても冷たく感じた。 「夏菜!あなた今まで何していたの! それから誰なの、その男の人は!」 そう言いながら、 西森の母はツカツカとこっちに向かって歩いてくる。 口調と表情から『怒りの感情』が伝わってきて、 おれは思わずビクッと縮こまってしまった。 どうやら、おれのことを『変な怪しい男』と思っているようだ。 「あのっ、すいません!おれー・・・」 と、名乗ろうとした瞬間に『バチーン!』と左の頬に平手打ちを受けた。 「!?」 突然の出来事にびっくりして声が出ないおれに対して西森の母は、 「あなた、うちの娘に何をしてくれたんですか!」 と近所に響き渡りそうな声で怒鳴った。 昼間は娘に叱られ、夜は母親に平手打ちされ、 おれの今日一日は一体どうなっているんだ・・・。
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