たこ焼き

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西原の言葉に店員は青ざめたような顔をして、すぐ作り直します!と足早に去っていった。 「すげーな、西原は」 「え?」 「僕だったらたぶん言えないよ」 僕がしみじみそう言うと、西原はつついていた煮魚の箸を止めた。 「つーかさ、さっきの話の続きだけど、俺だってこれで悩んでるんだぜ」 そう言って西原は自分の頭を人差し指でつんつんと触った。 「え? 頭の悪さ?」 「ちげーよ! 髪だよ、髪! 最近抜け毛がひどくてさ。頭頂部が禿げかけてきてんの。どうやら家系的にも薄毛っぽいしな、結構ヤバい状態なんだよ」 「見た目的には全然わかんないけど」 「当たり前だろ! こちとら毎朝アホみたいに時間かけてセットして必死に隠してんだよ!」 「ふぅん。西原が薄毛で悩んでたなんて知らなかった」 「そういうもんだよ、人の悩みって。自分にとっては死活問題だけど、他人からすればどーでもいいことになる。当たり前だよな。自分には関係ないんだから」 「たしかにな」 「でも、外見的な悩みにしろ内面的な悩みにしろ、何かしらの悩みは人それぞれ持ってるし、苦しいのはお前だけじゃないし、俺だけでもない。つまり、人間はみんな苦しい……。だけど、だ! それでも生きていかないといけないから、こうやって飲んだり食べたりして少しでも辛い現実を紛らわしてんじゃねーの?」 「……さすがっす。薄毛の西原先生」 「おい! 早速いじるな!」 「先ほどは失礼致しました。こちらたこ焼きでございます」 作り直されたたこ焼きがテーブルの上に置かれた。それを僕と西原は一個ずつ取り、なんとなく二人ともおそるおそる半分に噛んだ。さすがに中がひんやりしていることはなく、むしろ熱過ぎるほどだったが、西原がいなかったらこの熱々のたこ焼きも食べられなかった、と思うと少々感慨深いものがあった。 「なぁ」 「ん?」 「うまいな」 「だな」 そう言って顔を上げたとき、僕はついセットが崩れかかっている西原の頭頂部に視線を送ってしまったのだが、西原はそれに気づかず、二個目のたこ焼きを口一杯頬張っていて、なんというかそれが珍妙でつい頬が緩んだ。 まぁ、これからも自分なりにぼちぼち行こうかな……。 僕の小心者という悩みの重量が一グラム軽くなった瞬間だった。
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