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思わぬ質問ぜめ
ところが、先生はぼくを値踏みするように質問ぜめにし始めた。
「うーん、身長は合格ラインね。ところで、キミ、大学行くみたいだけど、卒業できる?」
「え? はい。そのつもりです」
「あと、奨学金借りるんだよね。ちゃんと就職して返済できるの?」
「あ、そのつもり……」
「キミは確か両親健在だったと思うけど、結婚したら同居は嫌だよ」
「あの、まだそういうこと、話したこと無くて……」
「じゃあすぐにでも話してよ。わたしには余裕なんてないんだから!」
「え、その、どう言うこと……?」
「だって私、もう30歳になるんだもの。ダメだったらやり直しなんて効かないの。お付き合いしたいんでしょ? 私と」
たじろいで何がなんだかわからなくなっていると、
「何黙ってるの? そうそう、これ」
先生は一枚の紙を差し出す。それはなんと婚姻届だった。先生の名前と証人の部分が既に記入されている。
「オトナのお付き合いって、これが前提なんだよ。キミの名前を夫の方に書く覚悟はある?」
先生は授業中にも見せなかった真剣な眼差しでぼくを見る。ぼくは……
――ここに名前を書けば、夢が叶うんだ。
ペンケースからボールペンを取り出して、自分の名前を書き始めた。その瞬間先生は。
「ちょ、ちょっと待って! あなた本気なの!?」
「はい!」
元気に宣言して、ぼくは続きを書こうとした。それをさえぎって、
「あの、その……、ごめんなさい」
少し沈黙して先生は婚姻届を下げてかばんの中に入れた。どうやらぼくを試していたらしい。少しむっとしたぼくは、
「どうしてこんなことしたんですか?」
申し訳なさげに先生は答え始めた。
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