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エピローグ
一緒にいてわかったが、先生というのは激務で、彼女は深夜に帰宅することも珍しくなかった。土日も仕事することがあって大変そう。
だから家事をすることもキツイようで、ご飯はほとんどぼくが作ってる。最初は先生に教えてもらいながらだったが、1か月経つ頃にはだんだんできるようになってきた。
寝る前に、疲れた体をマッサージしてあげることもあった。とても凝っている身体をほぐしてあげて、安心して寝ている顔を見るとうれしくなる。
ところが同棲を始めて3ヶ月ほど経ったある日、突然。
「私、実家に帰らせてもらうわ」
「ええっ? どうして?」
ぼくの驚いた顔を見て彼女は安心したように。
「大丈夫、夜には帰るから」
たまにこうやって試してくるのが嫌いだ。1ヶ月に一度はこういうことをしてくる。
だからぼくは行動に出ることにした。
「そんなに試してくるなら、ぼくにも考えがあるよ」
「考えって何?」
ぼくは机の引き出しに入っていた、例の婚姻届を取り出した。
「あのあと、これを見つけて、ぼく最後まで書いたんだ。そんなに離れるのが不安なら、夫婦になろうよ」
「あ、ちょっと……!」
いうが早いかぼくは自転車に乗って役所に向かい、守衛さんに婚姻届を渡した。後から彼女が追いかけてくる。
「ほ、本当に渡しちゃったの?」
「うん。試されてばかりなの、もう嫌だから」
「……、ごめんなさい……、あの、こんなこと言うの何だけど、幸せにしてくれますか?」
「そのつもりですよ」
偽りの無い返事。それを聞いた彼女ははじめて口づけを交わした。
こうしてぼくは、試してばかりで嫌いな先生と、夫婦になることになった。
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