人ごみの中心で、愛を叫ぼう

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 オレは今年の三月、人口わずか1000人の某県の限界集落で、たった一人だけ高校を卒業した。  3時間かけて隣町の高校に通った。 「高校のヤツらでさえ、オレの集落をムササビの国とか言いやがって」  だか、そんな屈辱とも今日でおさらばだ。 いよいよ、オレの野望を叶える時が来たのだ。 「ついに! あの通勤地獄を味わえる! あの世界最高の人間密度の中で、オレという人間の存在を確かめるんだ!」  子供のころから、この人の少ない山村が、嫌いだった。 「人、人だ。人に囲まれたい! オレと同じ年ぐらいの、人間を出せ!」  龍神沢で叫んだところで、オレの心の叫びを受け取ってくれる人間はいなかった。 「おとう、おかあ。オレは高校出たら、東京に行く。これだけは絶対に譲らねえから!」 「ああ、好きにしろ。ただしな、お前が帰ってくる頃には、この故郷はなくなっている。それでもいいか?」 「けっ、こんな何もねえド田舎なくなってくれた方がよっぽどありがたいわ! 都会に出て、揉みくちゃにされつつ、通勤するんだ!」
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