【イジメっ子】

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妻は、帰宅した綾香からその男子生徒の名前を聞き出すと、クラスの連絡網から相手の連絡先を調べ、そこに電話をかけて謝ったそうである。 「え?謝ったの? 何も、そこまでしなくても…だいたい悪いのは、相手の方じゃないか」 「まあ、そうなんだけど… 私もこんな状態のまま、夏休みに入っちゃうとさ。二学期からのPTAの集まりで何となく気まずいかなと思って…」 「あ、なるほど!そうか! 今日は一学期の終業式だったな!って事は、綾香は明日から夏休みかぁ!良いなぁ夏休み!ハハ!」 と…そこで、俺は 百合子の表情が不機嫌そうになりかかっているのを察知し、 「あ、ごめんごめん!それで相手の親御さんは何て言ったんだ?」 と、先を促した。 「うん、それがね。 電話に出たのはその男子生徒のお母さんだったんだけど… 『私も帰宅した子供から事情を聞きました。謝るのは、こちらの方です!ウチの子が新田さんのお嬢さんを突き飛ばしてしまい、本当に申し訳ありませんでした!どうかこれからも仲良くしてやって下さいね!』 って、言って下さったのよ!」 「へぇ、なかなか出来たお母さんだね!」 最近、ドラマなんかで… どんな事情が有っても『悪いのは相手の子よ!ウチの子は悪くない!』と声高に主張する親の姿を目にしていた俺は、その話に少なからず感心した。 「でしょ!でしょ!何だか、私も感動しちゃった!」 妻の百合子も、微笑みながら声をあげた。 そして… 「この事を話したくて、ずっとあなたが帰るのを待っていたのよ!とにかく誰かに話したくって!」 と、彼女はニッコリと俺の顔を見詰めた。 「え?『とにかく誰かに話したかった』って…お母さんには話さなかったのかい?」 「いや、話したんだけど…『子供のケンカに親が口出しするもんじゃない』って言われちゃって…」 「確かに、ごもっとも」 俺も全くもってお母さんの意見に同感だ。
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