22人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
妻は、帰宅した綾香からその男子生徒の名前を聞き出すと、クラスの連絡網から相手の連絡先を調べ、そこに電話をかけて謝ったそうである。
「え?謝ったの?
何も、そこまでしなくても…だいたい悪いのは、相手の方じゃないか」
「まあ、そうなんだけど…
私もこんな状態のまま、夏休みに入っちゃうとさ。二学期からのPTAの集まりで何となく気まずいかなと思って…」
「あ、なるほど!そうか!
今日は一学期の終業式だったな!って事は、綾香は明日から夏休みかぁ!良いなぁ夏休み!ハハ!」
と…そこで、俺は
百合子の表情が不機嫌そうになりかかっているのを察知し、
「あ、ごめんごめん!それで相手の親御さんは何て言ったんだ?」
と、先を促した。
「うん、それがね。
電話に出たのはその男子生徒のお母さんだったんだけど…
『私も帰宅した子供から事情を聞きました。謝るのは、こちらの方です!ウチの子が新田さんのお嬢さんを突き飛ばしてしまい、本当に申し訳ありませんでした!どうかこれからも仲良くしてやって下さいね!』
って、言って下さったのよ!」
「へぇ、なかなか出来たお母さんだね!」
最近、ドラマなんかで…
どんな事情が有っても『悪いのは相手の子よ!ウチの子は悪くない!』と声高に主張する親の姿を目にしていた俺は、その話に少なからず感心した。
「でしょ!でしょ!何だか、私も感動しちゃった!」
妻の百合子も、微笑みながら声をあげた。
そして…
「この事を話したくて、ずっとあなたが帰るのを待っていたのよ!とにかく誰かに話したくって!」
と、彼女はニッコリと俺の顔を見詰めた。
「え?『とにかく誰かに話したかった』って…お母さんには話さなかったのかい?」
「いや、話したんだけど…『子供のケンカに親が口出しするもんじゃない』って言われちゃって…」
「確かに、ごもっとも」
俺も全くもってお母さんの意見に同感だ。
最初のコメントを投稿しよう!