第1話 5月の朝のモラトリアム

3/8
前へ
/206ページ
次へ
 会社をやめるさらに1週間前の同じように静かで暖かな土曜日の昼下がり。  僕が作ったカレー、彼女よりもこれだけは上手に作れる、を食べ終わった彼女は、開け放した窓から入り込んでくる風に心地よさそうに目を細めた。そしてゆっくりと頬杖をついて僕を見上げて言った。 「ロンドンに行けることが決まったんだ」  ごめんね、そう言ってこれ以上ないくらいふわりと笑った彼女を前に、僕はただ黙って今と同じように空を眺めていた。  
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

340人が本棚に入れています
本棚に追加