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僕は結局何もしたくなかったんだなぁ。 突然手に入れた自由に戸惑って、ぼんやりと時を過ごしていることに耐えられなくて、有意義なことをしなくちゃいけないと思うのに、何が『有意義』なのかすらわからない。
嫌になるくらいネット配信映画を見て、漫画レンタルをし、ぼんやりと流れるテレビの音に自分がかき消えてしまいそうになってからようやく外に出たとき、コンビニの主要商品が見覚えのないものに変わっていて季節が僕をおいて通り過ぎて行こうとしていることに気づいた。
公園のベンチのできるだけ隅に腰掛け、缶コーヒーをすすっていると小さな子供の笑い声が響いてきた。女の子が「きゃー」と笑いながら、手を広げてヨチヨチと歩いていく。彼女の視線の先には艶のある毛並みをした白いネコが姿勢を正して座っていた。気品。なんだかそんな言葉が頭に浮かんだ。女の子が近づくとするりと美しい肢体をわずかに動かして彼女との距離を図る。きちんと足を揃えて座ると彼女に向かって「さぁ、もう一度」というように尻尾をふっている。女の子の後ろからのんびり歩いてくる女性は「走るとあぶないよー」と笑いを含んだ声をかけながらもにこやかに落ち着きをはらっている。
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