第4話 7月、素人カレーと素人批評家

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 25年。僕の人生とほぼ同じ時間、同じことをし続けているなんて、ものすごいことなのではないだろうか。嫌になることはなかったのだろうか。自分がやっていることが無意味だと感じてしまったことはないのだろうか。  坂下さんは中村の視線を気恥ずかしそうにかわし、黙ったままの僕をちらりと見てからわずかに目を細めてつぶやいた。 「この学校を始めたのは僕が毎日少しずつ集めた知識を全部ここに放り出してしまおうと思ったからなんだよ」  放り出す、という言葉。知識のバトンのように受取手を定めるのではなく、誰が拾っても拾わなくても気にしない。そんなニュアンスが感じられて中村も不思議そうに坂下さんを見つめた。  僕たちの視線を受け止めるように、ニッと口元をあげて見せて、 「君たちもなんでもいいから僕から奪うつもりで通ってみてよ」と坂下さんはおどけるように言いながら手に持ったグラスを軽く掲げる。僕と中村も慌てて乾杯をするようにグラスを掲げて、「よろしくお願いします」と飲み干した。  この人の中にも、僕なんかにはわかりようのない色んな時間が積み重ねられているんだろうな。僕の人生よりも長い時間をかけて、今日食べたチキンカレーは出来上がったのか。心の底から、僕のカレーはまだ趣味のかけらのようなものでしかないなと実感した。 「新タームからよろしくお願いします」  僕の口からその言葉が飛び出たのは中村よりも早かった。  正直に言うと、ここに来た時点ではまだここに通うかどうか悩んでいた。でも、味わったカレーの素晴らしさや学べる知識の広さは魅力的で今では授業が楽しみになっていた。かなり個性の強そうなメンバーとうまくやっていけるかは不安だけど。
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