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ううんーん、と空に向かって背を伸ばし、さわさわと揺れる木々の音に耳を澄ましたら、僕は自由なんだなぁ、と解放感が足の先からゆっくりと這い上がってきた。
5月の透明な朝の公園に、僕はいてもダメなわけではないんだ。生きるも死ぬも僕の自由だ。もう少しだけ自由で不安定なこの時間に身を委ねてみようと思った。
「ありがとう」
僕が猫に声をかけるとパタンと1度だけ尻尾を振った。5秒前までの僕と細胞レベルではそれほど何も変わっていないのに、ほんの少しの温もりで気持ちが前向きになった。そんな僕のモラトリアムな決意に呼応するように数週間ぶりにスマホがメッセージを受信した。
スマホに表示された名前を見てもう一度猫をふりむく。メッセージは先ほど頭をよぎった小学校の同級生からだった。家族以外で初めて僕のカレーを食べてくれた中村だ。
「お前が呼んだわけじゃないよな?」
猫はちょっとだけ僕にむかって頭を上げたけど、うるさいぞ、というように目をしかめてすぐにくるりと丸くなった。
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