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第2話 5月、スパイスの夜とカレーの中村
この季節の晴れた日の夜はどことなく街が華やいで見える。日が落ちるとまだ少し肌寒いけれど、からりとした夜空はこれから来る夏への期待を含んでいるようで、すれ違う人々が妙に楽しげに見える。
「お前変わってないなぁ」
隣を歩く中村がしみじみと今日5回目くらいの感想をつぶやいた。
「お前は。・・・なんか大きくなったな」
「まぁな」
中村は機嫌よくそう言うと、「あ、ここだ」と狭い路地にある小さなお店を指差して中に入って行った。顔なじみのお店らしく「どうぞー」とお店の人に愛想よく案内されていく中村を見て、あらためて「大きくなった」なと思った。
中村は小学校で2年間同じクラスだった。小学生だった中村と待ち合わせの時に現れた人物が合致しなくて、誰だこいつと思ってしまった。
「だから、中村だって。”カレーの中村”だよ」
カレーの?
そう言われて鮮やかに記憶の中の少年と目の前の人物が結びついた。
「うわ、中村かぁ。久しぶりだな」
僕のタイムラグの大きすぎる返事に、中村は「だから最初っから言ってるじゃん」と朗らかに笑った。笑った声の持つ懐かしさが僕の耳に響いた。
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