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「二度と来るな」
そう言われて外に出され、鍵までかけられてしまい、僕は何もまともに考えられないまま、元来た道を戻り、真上より少し傾いた太陽の発する猛烈な熱を受けながら仕事場へ向かい、昼寝していた親方を起こさないように斧を手に取り、外に出てそのあたりの木に一撃叩き込んだ。
何の罪もない木は、斧が振るわれるに従って削られた。斬られても叩かれてもすぐに治る彼女の身体を思い出して、吐き気がした。
だが、そこまでしてようやく、少しずつ頭が働くようになってきた。相変わらず彼女が犯される姿はまぶたの裏から離れないが、彼女のあの太陽のような笑顔も思い出すことができた。
手にした斧を見つめ、握り締める。もう一撃、木に叩き込んだ。もう一撃、もう一撃、もう一撃。
その木が倒れるまで、僕はそれを続けた。
日はもうほとんど沈もうとしている。僕は屋敷への道を急いだ。
岩場より先の道は、自由に茂っている邪魔な草木を手当たり次第斧で叩っ斬りながら進んだ。途中僕を転ばせた蔓は、念入りに叩き潰した。
屋敷へ着く頃には、夕闇が空を覆っていた。斧を構え、走り寄り、扉に向かって勢い良く振り下ろす。古く脆い扉にはあっさり亀裂が入り、僕はそこを蹴り飛ばして穴を開け、中へ侵入する。
目指すは地下へ続く階段。扉を開けてそのまま走り降りようとするが、足元が見えない状態で急階段を下りるのは難しく、もどかしい思いをしながら扉を閉めに戻った。
飛ぶように階段を下りると、服こそ着ていたが乱れた髪をそのままにした彼女――ルミが、壁にもたれかかってうなだれていた。
「ルミさん……!」
名前を呼ぶと、ルミは疲れ切った顔をこちらに向け、目を丸くする。
「リオ? 何でこんなところに……」
「いいから、逃げよう」
すぐさま僕はルミの手首をつかんで、引っ張ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って」
ルミは壁に手をつきながらゆらゆらと立ち上がる。僕は先を急ごうとするが、
「ちょっと待ってってば!」
ルミはそこを動かなかった。僕は振り返る。
「ねぇ、見たの?」
僕の目に映ったルミの顔は、悲しそうだった。
「答えて」
「……」
首を縦に振る。
「そっ……か」
ルミは俯いて、しばらく黙っていた。僕はとにかく早くここからルミを出したくて、少し苛立ちながらその姿を見ていた。
やがてルミは顔を上げて、絞り出すように笑う。
「えっへへ……。恥ずかしい、な」
僕はルミの手を引いて、階段を駆け上がる。
この後の計画など何もなかったが、ルミとならきっとどこまででも逃げられると、そう思いながら。
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