闇の子、光の姫

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 ルミは、屋敷の扉の前にいた。  僕が壊した扉からは闇がはみ出し、ルミに無数の手を伸ばしていた。僕を追いかけていた闇も、きっとこちらに集まったのだろう。  詳しいことは何も分からなかったが、闇が最も求めているのはやはりルミなのだということだけは分かった。 「ルミ、さん……」 「リオ……!」  声をかけると、ルミは振り返る。僕の怪我を見たルミはこちらに駆け寄り、自分の服の裾を破いて、僕の足をきつく縛った。 「行か、ないで……」  痛みに耐えながら、僕は声を絞り出す。早く逃げよう。どうしても行くなら、僕が代わりに。そんな思いも溢れるが、ルミには届けられなかった。 「……ありがとう、リオ」  再び頭上に輝き出した月のような笑顔をたたえ、ルミは小さな声で言う。  違う。僕が聞きたいのはそんな台詞じゃない。 「でも私、行かないと」  ルミは立ち上がる。  違う。僕は君に、行ってほしくない。 「怪我、ちゃんと手当てしてもらってね」  ルミは歩き出す。  違う、僕は……。  もう、君がいないと、駄目なんだ。  目覚めると朝焼けが空を赤く染めていて、僕は惨めに転がっていた。  屋敷の中に溢れていた闇は、もうそこにはなかった。まだ痛む右足を引きずりながら、僕は屋敷へ入る。  地下への階段をほとんど転がるように降り、あの両開きの扉を何とか押し開ける。  漆黒の中に入って、扉を閉める。一瞬訪れた完全な暗闇に、程なくして輪郭が浮かび上がる。  そして僕は、泣いた。  嘆くしかなかった。己の無力を。  認めるしかなかった。己の敗北を。  悟るしかなかった。闇に全身を犯され、なぶられ、いたぶられる彼女を前に、もはや何もできないことを。
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