闇の子、光の姫

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*** 「さて、そろそろ始めようか」  男は少女を膝から下ろし、杖をついて椅子から立ち上がる。 「なにするの?」  少女はきょとんとして、男の顔を見上げる。 「練習だよ。ルミ姫が『姫』としてちゃんと仕事ができるようになるためのね」  あまねく人間の悪感情が集合した闇に身を捧げ、その暴走を抑制すること。闇の子にしかできない『姫』の役割だ。  その残酷な運命を、ルミ姫と呼ばれた少女はやはりまだ理解できていないらしい。 「これから分かるよ。『姫』が何をしなければならないのか」  そう言って、男は少女の長い髪を優しく撫でる。この後、闇にいたぶられるであろうその髪を。  男の心を、悲しみが襲う。何年も感じていなかったその感情は、彼女がもう限界に近いことを示していた。 「ルミさん……」  静かに胸に手を当てる男を、少女は心配そうに見つめていた。  コツッ、コツッ。杖をつく音が、階段に響いた。  屋敷の地下にある両開きの扉の前に立ち、男は少女の両肩に手を置く。 「準備はいいかい」 「うーん」 「……まあ、そうか」  百回言い聞かせるより、一回体験するほうが、きっと分かるというものだ。  男は扉を押し開け、その中へ少女を入れる。 「いってらっしゃい、ルミエリーナ」  いま、新しい闇の子が、『姫』の運命を継承した。
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