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この街から出よう出ようと独り言を虚空に投げながら、実際にそうしようと努力することもなく、ただつまらない人生をつまらないと嘆いて十六年間生きてきた。
特別新しいこともなければ面白いこともない、変わり映えのしない毎日を、ただ神に与えられた義務か何かのように消化しながら過ごしていく。
高貴な家庭に生まれたわけでも類稀なる才能に恵まれたわけでもない僕には、せいぜいその程度の暮らしが似合っているのだ。そう言い聞かせながら、今日も仕事場へ向かう。
その、はずだった。
「濡れちゃう濡れちゃう!」
「そこ、ちょっと空けろ!」
突然の豪雨に慌てふためく人々に混ざって、僕は手近な屋根の下へ避難する。こうも大雨になってしまっては、今日の伐採も恐らくは中止だろう。
このまま濡れながら仕事場へ向かったとして、どうせ不機嫌なのであろう親方の文句を聞かされるだけだ。最近はこんな突発的な雨が続いていて、親方も日増しに苛立ちを強めている。
そんな親方の顔を思い浮かべるたび、僕の心はこの天気と同じくらい荒れた。
山の斜面で作業ができなくなる程度には土を緩くした雨も、昼前には止んでいた。
今頃親方は酒を飲みながら、やり場のない怒りをそのあたりの木に叩き込んでいることだろう。そんな想像がこの日だけは、僕の足をほんの少しだけ、仕事場から遠ざけた。
回り道して、普段通らない道を行く。街を出て、街道から逸れて森を通る古い小道に入る。知らない道だが、この道の不便さを解消するためにできたのが街道なのだから、いずれは街道と合流するのだろう。悪足掻きのような時間稼ぎには最適だ。
誰も使わなくなって久しい小道は昼間ながら薄暗く、そこかしこに勝手に生えた草が道を自然に帰そうとしている。回り道をしているという罪悪感を一応向かってはいるという言い訳で濁しながら、僕はそこを歩き続けた。
ふと、脇に逸れる道を見つけた。ほとんど草木に埋もれてしまってはいるが、それは確かに道だった。
何を考えるでもなく、僕はその道へ折れた。考えたことがあるとすれば、このまま普通に道を進んだとき聞かされることになる親方の怒声だ。どうせ聞くなら、後のほうが良い。
草を掻き分けながら進むと、突然視界が開ける。そこは岩場になっていて、草も木も生えず、太陽の光が直接届いていた。さながら、森の臍のような空間だ。
しかし、僕が驚いたのはそのことではない。
そこには、一人の少女がいた。
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