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屋敷の扉を叩いても、人が出てくることはなかった。扉を引くと鍵はかかっておらず、ギイと音を立てて開いた。
中は薄暗く、灯りの類は見当たらない。やはり人の気配はなく、本当に彼女が住んでいるのかを疑うほどだ。
足を踏み出し、そろそろと中へ入る。扉をゆっくり閉めると、暗さが増した。幕を閉め切った窓からの弱い光だけを頼りに、廊下を左へ進んでいく。
いくつか部屋の扉があったが、どの部屋からも物音などはしない。反対側の廊下も同じだった。
家の事情、と彼女は言った。兄妹二人暮らしで会えなくなるほどの事情……もしや、この屋敷を離れたのだろうか。
そんなことを考えつつ、今度は二階へ向かう。一階と同じように広がっている左右の廊下を調べたが、結果は同じだった。
三階は構造が異なり、廊下はなく部屋が一つあるだけだった。部屋の扉がわずかに開いており、僕は隙間から中を覗いた。古い寝台が一つ見えただけだった。
思い切って扉を押し開け、部屋の中へ。誰もいない正方形に近い空間にはほとんど何もなく、寝台のほかにはふかふかした椅子と頑丈そうな机が窓際にあるのみだった。
寝台はやはり一つだけのようで、どうやらここは彼女かその兄どちらかの部屋らしい。人が戻ってこないうちに、僕は部屋を抜け出した。
一階まで戻ってから初めて、階段の脇に頑丈そうな扉があることに気付いた。開けてみると、暗くてほとんど見えないが、下へ続く階段があるようだった。
少し迷ってから、意を決して足を踏み出す。もう、彼女がいるとしたらこの下しかない。
扉は開けたままにしておこうとしたが、どうしても閉まってしまうようだったので、仕方なく閉めた。
そのとき、灯りがついたわけでもないのに、階段が下まで見えるようになった。赤い絨毯が敷かれた階段が、細く伸びている。一瞬度肝を抜かれたが、それ以上害があるわけでもないようだったので、下へ進む。
踊り場を経由して切り返した先に、少し広い空間があった。そこには何もなく、正面に大きめの両開きの扉があるだけだった。
ここが、彼女の部屋だろうか。扉の前まで進み、取っ手をつかむ。ゆっくり引くが、びくともしなかった。
「あ、押すのか……」
今まで緊張が続いていただけに、気が抜けて思わず独りごちる。
「ここで何をしている」
その瞬間に後ろから飛んできたその声は、僕の心臓を大きく飛び上がらせた。
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