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 しかしよく見ると、平然とした様子の南雲の頬は少し赤かった。きっと気温のせいだけではない。洋一郎は瞬いた。  本当に、本気で言っているのだろうか。女子にモテるはずの彼が、こんな平凡な同性と恋人同士になってもいいと。 「北見……これってもしかしてキス待ち?」 「別に待ってないけど、してもいい」  は? と南雲の間抜けな声。 「南雲が本当に嫌じゃないなら、その、付き合ってくれないか? 俺と」  熱い。何だか色々と熱い。一生分の恥ずかしさを経験したのではないかと洋一郎は思った。ところが、その渾身(こんしん)の告白に対して、相手は複雑そうな顔をした。  まさか、ここまできて断られ――。 「やっぱり、無理か?」  思考が最悪の方向に(かじ)を切ろうとしていた時、予想外の言葉が返ってきた。 「今さら前言撤回はねーよ。でも、キスはまだ、な」 「……自分から言い出したのに?」 「悪い、調子乗った。顔見るのも慣れてないのに、男同士でいきなりはなかったわ」  人をその気にさせておいて。呆れたし一瞬怒りも湧いたが、確かに南雲の言うことにも一理あった。大体、クラスメイトとして普通に話したこともほとんどなかったのだ。  それに、洋一郎にしたって、今まで「嫌い」で通していた行動パターンを急に「好き」には変えられない。当分は違和感がつきまとうだろう。  洋一郎の表情を見て何を思ったのか、突然、南雲が肩を抱き寄せてきた。 「な、南雲?」 「何だろ。さっきの顔、意外と可愛かったなと思って」  反対側の手も背中に回され、洋一郎は鍛えた両腕に抱き締められた。南雲の体の熱さと彼の匂いに一気に包まれる。熱くて、胸が馬鹿になって、もう固まるしかなかった。 「可愛いって、男相手に……」 「北見」 「何?」 「これからよろしく」  耳元で優しく告げられて、緊張がふっと和らぐ。洋一郎は遠慮がちに腕を伸ばして、南雲の腰の辺りを抱き返した。 「……よろしく」  今までの態度を急に変えることはできない。でも少しずつ、南雲が好きな自分に素直になれたらいい。今度は理由を、好きな理由を言えるように。そう思いながら、洋一郎は南雲の腕の中でそっと目を閉じた。
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