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「やっぱし、俺のこと嫌い?」 「ああ」 「そっか。理由はできたのか?」 「そうだな……イケメンだからかな」  どうも、と南雲は笑いを含んだような声だ。それに心臓が反応してしまう辺り、我ながら重症だと思う。 「それって、理由がないって言ってるのと違わないよな?」  こんな流れになるはずじゃなかったのに。洋一郎はむっつりと黙り込んだ。南雲が整った顔立ちではなかったら、イレギュラーな感情を抱くことは多分なかったし、告白現場に遭遇することもなかっただろう。理由としては一番しっくりくるのだが。  風が吹いている。そう言えば、管楽器のことをウィンドと呼ぶのだと、どうでもいいことを思い出した。天然の演奏を聴くだけの時間が続く。 「俺も、嫌いな理由が見つからなかった」  唐突に、南雲が言った。 「え?」 「勘違いだったらごめん。この前ちょっといじったら、北見、変な反応しただろ? マジかよって、かなり引いた」 「だからそれは……」  否定しようとしたら、南雲は首を横に振った。 「あり得ないって思ったから、嫌いだってことにしたかったんだけど、北見のこと嫌いにはなれなかった。北見が言ってるのもそういうことじゃないの?」  感づいていない訳ではなかったのか。それより、今何かとんでもないことを言わなかったか。  サアッと風が吹く。洋一郎の心拍数が上がっていく。この流れはどこへ向かっているのだろうか。 「俺は……もし勘違いじゃなかったら、付き合ってみるのもありかな、と思ってる」  風がやんだ。 「えっと? 誰と、誰が付き合うって?」 「俺と北見だけど」 「しれっと爆弾投下するのやめてくれない?」  洋一郎は声を上ずらせた。一人でパニックに陥っている洋一郎を、南雲はじっと眺めている。 「勘違いだってことにしてもいいけど?」  そう言って、洋一郎に「嫌い」という逃げ道を残してくれる。人に決断を投げて、自分だけ冷静な態度で――その余裕がずるいと思った。 「あの時の後輩はあっさり振ったくせに」 「知らない女子はな。付き合ったところで、どうしても素っ気なくなるから」 「でも、そんな……飛躍しすぎだって」 「じゃあ友達にしとく? まだ俺ら友達ですらないし」  余裕すぎて、ちょっと嫌いになりそうだ。  
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