17人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
3
2年4組では相変わらず、洋一郎と南雲は仲が悪いと言われている。当事者としては色々あったが、それがあってもなくても扱いが同じなのがおかしくもあり、安心でもある。
南雲はこのところ、テスト前と比べて洋一郎を自分から避けるようになった。元々こちらが避けていたので傍目にはこれも今まで通りだろう。全く傷つかないと言ったら嘘になる。けれど、距離を置く手間が少なくて済むのだから、洋一郎としては歓迎すべきことだ。
そう思っていた、告白事件から数日たった7月某日。廊下で出くわした夏服姿の南雲に、意外にも呼び止められた。
「今日の放課後、時間ある?」
掃除当番がロッカーからほうきを取り出し始めた頃、洋一郎は前回よりも1mほど間を開けて南雲についていった。今日の部活はパート練習だから、多少遅刻しても大丈夫なはずだ。
たどり着いたのは屋上だった。白い雲がぽこぽこと浮かぶ青い空。夏の太陽に照らされたコンクリートがまぶしい。25度前後はありそうだったが、風もあるので真夏のような殺人的な気候ではない。花が植わったプランターが点々と並んでいるだけのシンプルな空間には、他の人影はなかった。
南雲は「暑いな」と言いながらドア脇の日陰になっている壁に寄りかかった。
「北見って楽器できるんだな。あの……クラリネット?」
「オーボエ」
「あれオーボエか。正直、何であそこにいたのって感じだけど、助けてくれたってことで合ってる?」
「まあ、通りがかったついでに」
気味悪がられたかな、と洋一郎は身構えたが、南雲の言葉は「北見に借りができたな」だった。
「それにしても、あの曲のチョイスって。映画のシーンが頭に浮かんでやばかったわ」
「吹ける曲で修羅場っぽさが出るのがそれくらいだったから」
「いや、正解だと思う」
変だ。南雲が普通に会話してくる。もしかすると、ツンデレだのソッチの意味だの言っておいて、全然気づいていなかったのだろうか。よかったような、一方的に翻弄されたのがちょっと腹立たしいような。
だけど、分かっていないならなおさら、一度はっきりと突き放した方がお互いのためかも知れない。洋一郎は初夏の空気をゆっくりと肺に取り込んだ。
「南雲」
「何?」
「俺が南雲と話したくないのは、本当だから」
南雲のクールな二重の目がしっかりと洋一郎に向けられる。
最初のコメントを投稿しよう!