アインザッツ

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四角い箱庭の底から、空を見上げていた。 頭上に降り注ぐ光は、強烈な純白。 そう形容するのがしっくりくる。 ワン、ツー、スリー…… あきらめな。 両手を覆う8オンスの綿が、重い。 あきらめろ。 人の意思はーー弱い、知っている。 次の試合で負けたら引退。 誰も口に出さなかったから、俺から言うしかなかった。 (いぶか)るようなひんやりとした視線が全身を()うたびに、朝靄が降りつむひんやりとした夜気(やき)が、後ろめたい自嘲を冷やすたびに、俺は(たけ)りをました。 走り、殴り、奪い、嗤う。 これ以上のシンプルなことがあるか? 最高にハイってやつさ。 頭が真っ白になって、思い煩う暇もないしな。 フォー、ファイブ…… 精神は肉体の操り人形だ。 高名な哲学者の言葉で、リングサイドのジジイの好きな言葉。肉体の限界は精神の限界だと。 それがどうした? だからなんだ? シックス、セブン…… あー、何か(わめ)いているな。ジジイが。 折り畳まれた深い縮緬(ちりめん)の皺で、なに言ってるかわかりゃしねぇ。 あきらめどきだ。 あきらめるとは、決して後ろ向きな言葉ではない。 今を「明らかに見極める」こと。 先を生きる人間のためにある言葉だ。 ……ああ、空が、白い。白い。 エイト、ナイン、……テン。 3R 2分7秒 俺の片手は上げられた。 知ってるか? あきらめの悪い男がいちばん格好いいってことを。
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