人混みへ……

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人混みへ……

 青年は夜行バスに乗り、窓の外を見ていた。外を流れる景色はただひたすらに続く暗夜行路、高速道路の照明とトンネルの照明以外に見た光と言えば途中休憩で降りたサービスエリアの照明ぐらいだろうか。 蟹名サービスエリア。日本最大規模のサービスエリアである。 天辺を回り、丑三つ時を過ぎた深夜にも関わらずに人混みが出来ている。青年と同じく夜行バスの休憩で降りる客が多いのも当然だが、日本の動脈血流とも言えるトラック運輸の運転手が夜間の休憩で降りている方が多いだろう、 現に、大型駐車場は深夜にも関わらずに満車となっており、夜行バスとトラックの割合はフィフティ・フィフティである。 一般車の駐車場もそれなりには埋まっている、夜中に運転させられるパパさんの苦労も、後部座席ですーすーと寝息をたてる子供の顔を見れば癒やされるだろう。 「もうすぐ東京か」 青年は蟹名サービスエリアの広大なフードコートにて暗夜行路の道中にて減った腹にちょっとしたご褒美を与えていた。と、言っても夜中のラーメンの誘惑に負けただけである。 蟹名サービスエリアより東京までは直行すれば一時間に足ることなく到着する、だが夜行バスの場合はここから更に時間調整と回り道をした上で休憩を挟むのか二時間から三時間程の時間を擁する。 ちなみに、青年が東京に行く目的は梨明で行われる同人誌即売会への参加である。 食事を終えた青年はデパ地下を思わせるようなサービスエリアの外に出た。目の前には深夜にも関わらずに人混みが出来ている。さすがは日本一のサービスエリアと思った瞬間、大きな声が聞こえてきた。 「はい、カットぉ!」 その瞬間、青年以外の人混みが動きを止める、サービスエリアの玄関より出てきたサングラスにいかにも映画監督が被っていそうな帽子を被った壮年男性の元に集まる。令和の今になってあんなクラシックな映画監督いるんだな。と、青年は思いながら物珍しそうな目で眺めた。 「ちょっとみんな! もう少し眠気を持ったように歩いてくれないかな? 今深夜なのにどうして眠気も無さそうに背筋伸ばして歩いてるわけ?」 集まった者は皆壮年男性に向かって礼をする。壮年男性は更に続けた。 「それに何で目がパッチリしてるわけ? 少しでも良いから瞼重そうにしてもらえる?」 こんな夜中にパーキングエリアの夜中の風景を大量のエキストラを使って撮影しているのか、大変だなぁ。 青年はそんなことを思いながらカメラの前を横切って自分のバスへと戻っていった。
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