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それから二時間後、青年の乗る夜行バスは東京駅の矢重洲口へと到着した。
青年は同人誌即売会の行われる国祭天路場駅までの行き方を考えつつ、一時的に荷物を預けて置くためのコインロッカーを探しながら東京駅構内を徘徊していた。
同じことを考える者が多いのか東京駅のコインロッカーはどこかしこも埋まっていた。
それでも歩きに歩きやっと一つのコインロッカーが空いているのを見つけた。
「よかったよかった」
青年が荷物をコインロッカーに放り込んだ瞬間、腹がぐーと鳴った。
夜は寝るのにも体力を使うのか蟹名で食べたラーメンはあっという間に消化され、胃が食べ物を要求してきたようだ。
胃袋が虚ろに感じてきた青年は、東京駅ならこんな早朝でも空いているチェーン店の一つや二つあるだろうと、思い、一旦駅郊外に出て腹ごなしをすることにした。
構内で何か食べようとは思ったが、まだ開かぬ店のショーケースの中の食事の値段は角の内価格と言うべきなのだろうか、ちょっとした定食一食でも昼飯三回か四回分はあり、
青年はすごすごと諦めるのであった。
青年は角の内中央口から東京駅を出た。出た先で回れ右をすれば見えるのは赤レンガ駅舎である。
多分、日本で一番有名な駅の出口だろう。
駅構内から一歩出た玄関口の広場では背広を着たいかにもと言ったサラリーマンやOLが足早に歩いていた。
そこから少し離れた場所ではカメラが一台、三脚に乗って立てかけられていた。それもただのカメラではなくテレビ番組の撮影に使うようなカメラなのだ。バブル期のテレビ局のディレクターの風体をした男性がその横に立ちじっと赤レンガ駅舎を眺めている。
東京駅前を歩くオフィス街的な絵でも撮りたいのだろうか。今日は二度も撮影に遭遇してしまった。こんな偶然もあるもんだなと思った瞬間、大きな声が聞こえてきた。
「はい、カットぉ!」
その瞬間、サラリーマンやOLの動きが止まる。まるで時が止まったかのようにピタリと止まったのだ。青年も驚いて足を止めていると、サラリーマンやOL達がディレクターの元にぞろぞろと集まってきた。
「はいOK! いい絵が撮れました! 本日の撮影はこれで終了です! 矢重洲口にバスが停めてありますので給料受け取ってそのまま解散になります! それでは本日はお疲れ様でした!」
サラリーマンやOL達は皆、ディレクターの男に一斉に礼をする。それはまるで人で作るウェーブのようであった。
「お疲れ様です」
サラリーマンやOL達は皆ディレクターに挨拶をした後にぞろぞろと歩いていく。あっという間に玄関口の広場は閑散とした広場へと様変わりした。
「やらせってあんな感じで作られるのか」
青年はこう呟いた後、近辺にある飲食店を探しにかかった。
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