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こうして4時間程並び、同人誌即売会が開催された!
開始時刻と同時に黒山の大河の先頭より響く鬨の声を聞き、黒山の大河の皆もそれに続くように濁流音を思わせる歓喜の拍手を打って同人誌即売会の開催を祝福する。
青年は黒山の大河に流れ流され国祭天路場の中に入り戦利品を掴み、あっという間に目的を達成し、兵どもが夢のあとそのままにエスカレーター裏の壁を背にし、その身を寄せて、
戦利品を脇に抱えたり、抱きかかえたりする戦士達の波を掻き分け、自身も壁を背にし、身を委ね僅かながらの休息をとるのであった……
まだ明日もあるということで青年は国祭天路場から引き揚げることにした。後はのんびりコスプレイヤーの写真を撮って帰ることにしよう。青年はコスプレイヤーの写真撮影をするためにコスプレエリアを通り抜けることにした。
アニメや漫画の格好をするコスプレイヤーは多いのだが、最近ではそれ以外に社会時事のコスプレイヤーも多い、青年はその写真を撮り「こんなの流行ってたなあ」「ネタにしていいのか? これ?」などと考えながらスマートフォンのシャッターを切る。
「うわ、令和おじさんそっくり」
青年は新元号令和の額縁を掲げるコスプレイヤーを撮影した。この真夏の炎天下に背広をキッチリと着て、額縁を掲げたまま微動だにしない姿を見て感動すら覚えていた。
不動の姿を見て手のこんだ人形を疑ったが、顔を見ればダラダラと汗が流れぽたぽたと地面に落ちる。確かに本物の人間に間違いない。
青年がシャッターを切り終えてポケットにスマートフォンを仕舞った瞬間、前に聞いたあの言葉が聞こえてきた。
「はい、カットぉ!」
その瞬間、令和おじさんは令和の額縁を小道具の台の上に額縁を置いて、どこからか取り出したペットボトルの水を一気に飲みだした。
水を飲む令和おじさんの前に数人の男が近づいてきた。そのうちの一人はビデオカメラを肩に抱えていた。
「はい、シーン56終了! 次は夕方の帰り支度のシーンの撮影に入りますので休憩入って下さい」
そこにいたコスプレイヤー及びそれを撮影していた同人誌即売会参加者達は蜘蛛の子を散らすようにコスプレエリアからその姿を消して行った。
同人誌即売会にマスコミの取材が来ることは珍しくない。毎年の夏のニュースで「今年は30万人以上集まりました」と、言っているぐらいである。
それどころかドキュメンタリー番組で同人誌即売会の特集をしているぐらいだ。今見たのは同人誌即売会の取材に来ているマスコミだろうと青年は思った。
「取材来るって分かっていたら俺も何か着てけばよかったかな……」
青年はこんな冗談を言いながら国祭天路場を後にした。
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