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こいつ、この暑さで頭がどうかしたんじゃないのか?
友人はそう思いながら青年に冷たく冷えた麦茶を差し出した。青年はそれをぐいと飲み干した。
それでも青年の心が落ち着くことはない。狐か狸に化かされたのかと考えて、戦利品をペラペラと捲るが木の葉に変わる気配は無く、ちゃんとした同人誌である。
「確かに同人誌はあるところ、お前が買ったのは間違いないみたいだな」
「確かに売り子さんに金渡したぞ」
「お前が暑さでボケててアキバとかで買ったって線もあるなぁ」
「本当に国祭天路場のブースで買ったんだって! 信じてくれよ! そうだ!」
青年はテレビの電源を点けた。同人誌即売会のニュースは毎年毎年やっているもの、今回の初日の動員人数のニュースが放送されていると思いチャンネルを次々と変えていく。
だが、放送されているニュースはオリンピックのメダル取得を祝うニュースばかりであった。
「梨明に東洋の魔女再び!」
「体操団体、再びの金メダル……」
「テニス、前大会以来連続メダル取得……」
「新設競技のスケートボードで若き新星が活躍」
「これ全部梨明でやってるんだろ? あと、あの近辺は結構競技やってるから人は集まってるぞ、それと即売会の客を間違ったんじゃないか?」
「それだったら国祭天路場に人の列が出来るのっておかしくないか? それにあそこにいた奴らみんなお仲間さんの香りがしたぞ」
「ヲタの空気ってやつか? 俺、それはよく分かんねぇけど……」
「そうだ! コスプレ撮影したんだよ」
青年はスマートフォンの画像ファイルを開いて友人に見せた。
本日撮影したコスプレイヤーが続々と表示される。更に写真の詳細を見ると、本日撮影したことと、位置情報も確かに国祭天路場の座標となっていることが分かった。
「この写真だけなんかおかしいな」
「どれ?」
「令和おじさんの写真」
「これの何処がおかしいの?」
「令和って去年の5月からだろ? これネタにするコスプレやるんだったら去年の夏にやるじゃん?」
「あ……」
「ところがもう令和になってから一年経過してるやん? 風化した時事ネタを今頃やるなんて寒いにも程があるぞ」
「あ、そう言えば取材来てたな」
青年は友人にコスプレエリアに取材が来ていた話をした。友人は何かひらめいたように手をぽんと叩いた。
「その局に電話してみたらどうだ?」
「面倒くさいからいいや」
「なあ、お前どこにいたんだ?」
「もう考えたくない。それより明日渋谷行かね? 同人誌即売会が無いと分かった以上は梨明に行く理由もない」
「はいよ。服でも買いに行くか……」
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