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青年は友人と二人で渋谷に来ていた。土曜日と言うこともあり、人混みが出来ていた。
「やっぱり人多いな」
青年がスクランブル交差点の中央に差し掛かったとき、唐突に足を止めた。
「どうした?」
「昨日のこともあってさぁ…… 人混みが全部何かの撮影じゃないかって思えて来ちゃってさぁ」
考えすぎだ。友人はそう思いながら先を進む。
足を止めた青年はこの喧騒ではどうせ聞こえるはずも無いとして、
もしやと思ったことを高らかに叫んだ。
「はい、カットぉ!」
青年の叫びは渋谷の人混みの喧騒にかき消されるかと思われた。
だが、その叫びが行われた刹那、人混みの喧騒はピタッと急に止み、これだけ多くの人混みがあるにも関わらずに渋谷の街は水を打ったように静まり返った。
しばしの静寂の後、渋谷にいる者たちが次々に口を開く。
「ねぇ? カメラどこ?」
「変なとこでカット入ったけど、次どうしたらいいの? これで解散?」
「何だよ、次はどこの現場だっけ?」
皆、この様なことを言う、青年は何が何だか分からずに困惑することしか出来なかった。
「半端なところでカット入ったけどキューコール待ったほうが良いよね?」
「早くキューコール出してほしいな」
キューコール。手がかり、合図を出すと言うこと。マスコミ業界では「開始」の合図としての意味で使われている。
青年はこの人混み全てが仕組まれたものであることに気がついた。
こんな何十万人もの人混みをどうやって仕組んだのかと困惑し頭を抱える。
その瞬間、頭上の街頭テレビの映像が一斉にSOUND ONLYと書かれた画面に変わる。
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