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 悔しそうな順を置き去りにして、拓海は走り出した。昇降口に飛びこみ、すばやく上靴にはきかえる。 「後で迎えに行くからな、タク。勝手にふけるなよ!」  順のどなり声が追いかけてきた。クラスが違うので、彼と一緒になるのはここまでだ。拓海は振り返らずに、右手をひらひらと振って教室へと向かった。 「ダブルデートか」  うっかり頷きでもしようものなら、まじめな順は明日にもフルコースでセッティングしかねなかった。順や沙織と遊ぶのは楽しいし、その流れで知らない女の子と仲よくなるのも悪くない。そう思いながらも、拓海は今ひとつ乗り気になれなかった。  奈緒に対する父の、驚くほどあからさまな感情の起伏を見てしまったせいかもしれない。そういえばいつも落ち着いている順だって、沙織が彼女になってくれるまではそれなりにオロオロしていた時期があるのだ。  そんな日が、いつか自分にもやってくるのだろうか。ただ一人の誰かに心を奪われて、そのせいで天国と地獄を超高速エレベーターで行き来しっぱなしになるような時が。  恋に思い惑う自分の姿など想像できなかった。かわりに父のさみしそうな背中を、それから高原に咲く花のような奈緒の笑顔を思い出してしまい、拓海はまたため息をついた。
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