シンデレラはいない

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 その男は金持ちの貴族の息子でしたが、善良な心を持つ女性に惚れこみ、親族の反対を押し切って彼女を妻に迎えました。しかし儚く美しい彼女は病弱で子供を残すこともなく空に旅立ってしまいました。男は嘆き、悲しみました。そんな男に、妻が死んだことを喜んだ親族はすぐに他の女との縁談を持ちかけました。 「良い家柄の女性だ。」 「連れ子が二人ほどいるがどちらも娘で可愛らしいぞ。」 一度親族の反対を押し切った男にはもう反論することは出来ませんでした。  「アシェン様、二日後に社交パーティーを行うわ。もちろん良いわよね?」 新しい妻に男、アシェンはそう言われました。アシェンは今日から仕事で一週間ほど家を空ける予定でした。それに妻は二週間ほど前にも家で社交パーティーを行ったばかりでした。 「出費も嵩むし、少し頻度を……。」 異論を申し立てようとするアシェンを妻は鋭い眼光で睨みます。 「あらあら?仕事で家にあまり居ないあなたの代わりに家を守っているのは誰だと思っているの?」 そう言って異論を抑え込むとゆっくりとその少し皺が出来た手をアシェンの頬に伸ばします。そうして両頬を包みこまれてしまうと、アシェンはまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうのです。 「私の方があなたの倍くらい長く生きてるの。坊やは全部、私に任せれば良いのよ。」 妻はそう言って笑いました。アシェンは家のことが心配になりながらも仕事に出かけました。
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