10/13
前へ
/212ページ
次へ
 美空は促されるまま、アルバムのページをめくっていった。  赤ちゃんの頃の写真があまり無いことから、晴斗の辛さが伝わってくる。きっと、気持ちの整理がつくまで、これだけの時間がかかったのだろう。  数枚のページの後には、保育園時代の紫雲の写真が続いていた。  若かりし頃の美空の姿もあり、恥ずかしいことこの上ない。 「わっかいねぇ。美空先生」  二人に茶化され、「あんまり見ないで下さい」美空は自身の写真を手で覆った。 「家では殆ど撮らなかったからな。保育園での写真販売が楽しみで……」  独り言のように呟くと、晴斗は愛しそうに、一枚一枚指でなぞった。  園で撮った写真は、定期的に展示し、希望者に販売する。そこに写る紫雲の姿が余程嬉しかったのか、晴斗はどんな些細な写真も購入していた。 「これ、紫雲君いませんよ?」  指さす美空に、「ここにいるじゃん」身を乗り出しながら、晴斗が答える。その指の先には、玉入れをする紫雲の後ろ姿が、他の子に紛れて小さく写っていた。 「これは流石に、親じゃないとわかりませんね」  目を凝らして再び写真を見つめながら、美空は感嘆の声を漏らした。 「もう恥ずいから止めろよ」  ついに居たたまれなくなった紫雲が、勢いよく席を立った。      紫雲が冷蔵庫を開けると同時に、「そういえば……」晴斗が紫雲に視線を移した。 「確かお前、美空先生のこと大好きだったよな」 「はぁ? 何言って……!」  コーラを取り出し、乱暴にドアを閉める。急いで戻って来る紫雲を見ながら、 「よく言ってたよ。結婚したいって」  晴斗がとどめの一撃を放った。 「こんの……! クソ親父!!」  大きな音を立てペットボトルをテーブルに置くと、紫雲は晴斗の首に腕を回した。 「暴力反対!」 「うるせぇっ!」  締め技をかける紫雲の腕を、「ギブギブ!」と晴斗が叩く。  それを横目で見ながら、「危ないって……」慣れた手つきで、美空がグラスを脇へ避けた。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加