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「それ食べたら、紫雲の部屋見てくるといいよ。買い足したいものがあればリストアップしといて」  ようやく落ち着き、残りのケーキを食べていると、晴斗がアルバムを手にして立ち上がった。  結局アルバムは、小学校中学年くらいまで見て、続きはまた今度ということになった。紫雲は「二度と見せるか」とボヤいていたが。  進学と同時に、紫雲は一人暮らしをすることになっている。それと入れ替わる形で、美空が登坂家に越してくる予定なのだ。2LDKのマンションには、丸々一部屋遊ばせておくような余裕は無い。  今使っている紫雲の部屋は、美空の仕事部屋として使わせてもらうことにした。  保育雑誌やら教材やら、やたらと荷物が多い保育士にとって、専用の仕事部屋が貰えるなんて願ってもない幸せだ。  片付けはやっておくから、という晴斗に甘え、メモ用紙とボールペンを手にすると、二人は連れ立って紫雲の部屋へと向かった。 「結構綺麗にしてるんだ」  感心しながら、美空はぐるりと見回した。 「恥ずいから、あんま見ないで」 「ちゃんと見なきゃ、わかんないじゃん」 「それもそうか」  恥ずかしそうに、紫雲が笑う。晴斗とよく似た口の端が、大きく上に持ち上がった。 「カーテンとかも替えていいよ。美空さんの好きな感じに」  紫雲は美空を『美空さん』と呼ぶ。  戸籍上は親子になる訳だから、『美空先生』と呼ぶのも変だし、かと言って『お母さん』と呼ぶのも抵抗がある。結局、『美空さん』に落ち着いた。  肝心の晴斗に至っては、『美空』『美空ちゃん』『みーちゃん』と、その時の気分によって色々だ。ただし『みーちゃん』は、酔っ払った時や甘える時の呼び名の為、二人だけの秘密だ。  特に、息子にだけは、知られたくない。
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