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「いいよ、このままで。私、水色好きだし」  ストライプ柄の淡い水色のカーテンをさらりと撫でると、美空はにっこり微笑んだ。  本棚と勉強机は新しく購入すると言うので、ここにある物はそのまま使わせてもらうことにした。  保育士は何かと持ち帰り仕事が多い。作業台があるのは有難い。 「ベッドはどうしようか……。流石に持ってくの大変だよなぁ……」  木製のシングルベッドの前で、紫雲は腕を組んで思案した。確かに、これを運ぶより、簡易ベッドを買った方が良さそうだ。 「これは置いて行きなよ。帰ってきた時、寝るとこ無いと困るでしょ?」 「わかった。美空さんがいいなら、そうさせてもらうよ」  ベッド問題が無事解決したところで、美空は本棚に目を向けた。 「これ……」  本棚の側面に、大ぶりのメダルがぶら下がっている。 『おたんじょうびおめでとう』と書かれたそれを手に取ると、「懐かしい」美空がふっと目を細めた。 「ああ、それ。なんか捨てらんなくて……」  恥ずかしそうに、紫雲が笑った。    子どもの胸が丸々隠れるほどのメダルの中央に、写真が一枚貼ってある。そこには、大きな瞳を輝かせた幼い紫雲の顔があった。  背後から、美空の笑顔が覗いている。紫雲の両肩には、美空の白い手がそっと乗せられていた。
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