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「確かこの時、どうしても先生と撮るって、駄々こねたんだよね」  本来、誕生日プレゼントのメダルには、本人のみの写真が貼り付けられる。だが紫雲は、美空も一緒じゃなければ写真を撮らないと、頑として譲らなかったのだ。 「俺さ、生まれた時から母親いないじゃん? 結構羨ましかったんだよね、周りの奴が」  当時を思い出しながら、紫雲がぽつりぽつりと語り出す。その横顔を見つめ、美空は静かに相槌を打った。 「せめて誕生日くらい、一緒にいて欲しいって思ってさ。だけど、どんなに願っても、それだけは叶わなくて……」  ベッドに腰を下ろすと、紫雲は悲しそうな笑みを浮かべ、美空を見上げた。 「母親を捜していたのかなぁ? 先生の中に……」 「紫雲君……」 「この際、先生でもいっかって思ったのかも」 「この際って……」    美空の手から金の縁取りをされたメダルを受け取ると、紫雲はまじまじそれを見つめた。 「それにしても……。可愛かったなぁ。美空先生」  紫雲が悪戯っぽく笑った。  その笑顔に安堵しながら、「当たり前でしょ? 十二年も前なんだから!」美空は軽く頬を膨らませた。 「今も……」 「えっ……?」  瞬間、視線が絡み合う。  紫雲が口を開きかけた時。 「おーい。リストアップできたかぁ?」  食後の片付けを終わらせた晴斗が、紫雲の部屋を覗き込んだ。 「あ……。だいたいわかりました」 「そっか。良かった。要るものあったら遠慮なく言ってね」 「はい。ありがとうございます」  晴斗に笑顔で答えると、美空は、未だ白紙のメモ用紙に、慌ててペンを走らせた。
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