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「今も……? 今も……何?」  あれから美空はずっと、紫雲の言葉の続きを考えていた。 「今も……可愛い? 違うか。今も……若い? うーん……」 「……先生! 美空先生!」 「ふぁ?」 「号令!」 「へっ?」  恵令奈に(つつ)かれ、美空はようやく我に返った。  今日はこれから、今週末に行われる運動会の最終チェックの為、全クラスがグラウンドに集結し、全体練習を行う予定だ。  子どもたちは既にチームごとに整列し、入場行進の合図がかかるのを、今か今かとじっと待っていた。  号令は、年長児のクラス担任がやることになっている。つまり、美空だ。 「あ、ごめ……」  慌てて笛を咥えるも、なかなかタイミングを合わせられない。一度ズレてしまったものは、修正するのが難しい。 「すいませーん! もう一度お願いしまーす!」  美空の呼びかけに、音響担当の先生が「はーい!」と曲を停止する。ため息を吐きながら肩を落とすのが、美空の視界に映り込んだ。 「ごめんね。もう一回させてね」 「いいよー!」  子どもたちの優しい声に、美空の胸は熱くなる。  音響担当の先生にも、後で謝りに行かねばなるまい。  無数の瞳に見つめられ、美空は気合を入れ直した。
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