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 哲太の目論見通り、海君は一目で紫雲を気に入り、喜んで親子競技に参加した。  当然の事ながら、ぶっちぎりの一位だった為、海君も大喜びだ。さすが体育会系。いつだって本気モードだ。 「結局、見た目か……」 「そんなことないって。ただ単に、物珍しかっただけだって」 「そうだよ。哲太先生だってカッコいいよ」  自ら提案したにも関わらず、がっくりと肩を落とす哲太を、美空と恵令奈が慰める。  応援席を見ると、紫雲の周りには子どもたちが大勢まとわりついていた。女の子が多いのは、気のせいだろうか? 「それにしても、モテモテじゃん。紫雲君」  頬を少し赤らめながら、恵令奈が応援席を見つめた。  長身イケメンの紫雲は、とにかく目立つ。  保護者席の方から、「あれ誰? 実習生?」と囁き合うお母様方の声が、あちらこちらから聞こえてきた。 「こりゃあ、心配ですなぁ。お義母様」 「ちょっと! 変なこと言わないでよ!」 「悪い虫が付く前に、味見しとかないとねぇ」 「やめてよ、こんなとこで」  冗談よ、と笑う恵令奈を、美空は肘で軽く小突いた。  トラックの中では今、保護者対抗の大玉送りの真っ最中だ。  子どもたちは応援席のテントの下で、水分補給をしたり寛いだりしている。  紫雲が手伝ってくれているおかげで、美空と恵令奈は今のところすることがない。年少児担任の哲太は、相変わらずクラスの子たちの世話で大わらわだが。 「ペットでもいいわねぇ」 「ペッ……!?」  いきなり飛び出した爆弾発言に、美空は唇をわなつかせた。 「ペットってなぁに?」  突然可愛らしい声が足元から聞こえてきて、二人は慌てて視線を下げた。  そこには、いつの間に来たのか、恵令奈の担当クラス、きりん組の女の子が一人、つぶらな瞳で担任を見上げていた。 「あ、聖羅(せいら)ちゃん」  一瞬で保育士の顔に戻った恵令奈は、笑顔でしゃがむと、聖羅の瞳を覗き込んだ。 「先生も、あんな可愛いペットが欲しいなって話してたんだ」  恵令奈の指さす方には、大事そうにコーギーを抱く保護者の姿があった。 「あ! 優馬(ゆうま)くんのワンちゃん!」  同じクラスの男の子の名前を口にすると、聖羅はその保護者の元へと走って行った。 「ほんと、可愛い」  再び応援席に視線を向けると、恵令奈はふふっと微笑んだ。
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