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*** ――なぜ、こんなことに……?  手元のおしぼりをくるくると巻き続けながら、美空は自問自答を繰り返していた。  あれから美空は、晴斗と連絡をとり、今日の運動会での紫雲の活躍を報告した。  とても助かったので是非お礼がしたいと言うと、「そういうことなら」と、晴斗は紫雲を快く出してくれたのだ。  受験生だからと断られるものだとばかり思っていた美空は、なんだか肩透かしを食ってしまった。この親にして、この子である。 「保育園の先生たちなら安心だ」という晴斗に、「お酒は絶対飲ませませんから」と約束し、美空は紫雲と共に、行きつけの居酒屋へと向かった。  入店し、予約名を告げると、二人はすぐに半個室の席へと案内された。  恵令奈と哲太は既に来ていて、二人が到着すると「待ってました!」と対面の席を促した。  紫雲と美空が並んで座ると、恵令奈は早速チャイムで店員を呼び、ドリンクの注文をし始めた。 「じゃあ、とりあえず生四つね」 「いえ! 生三つとオレンジジュースで!」  うっかり四人分のビールを注文する恵令奈を制し、美空は慌てて訂正した。 「オレンジジュースって……」  店員が去った後、紫雲がぼそりと呟いた。 「ごめんね。だって、お酒は飲ませないって、お父さんと約束したから」 「いや、そうじゃなくて。オレンジジュースはないだろ? オレンジジュースは。ガキじゃないんだから」 「あ、そっか。ごめん。違うのが良かった?」  慌ててメニューを開く美空に、「いいよ。次頼む時で」呆れた表情を浮かべながら、紫雲がため息を吐いた。
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