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「ちょっとちょっと。何だかいい雰囲気じゃない?」
恵令奈が目の前の二人に、意味深な笑顔を向ける。
ねぇ、と隣に同意を求めると、哲太も「そうっすね」と瞳を瞬かせた。
「これは、親子というより……」
「恋人同士みたいね」
「仲良し姉弟みたいっすね」
同時に言い、恵令奈と哲太は顔を見合わせた。
「こっ……!?」
美空の顔が、みるみる赤くなっていく。どうやら美空の耳には、恵令奈の声しか届かなかったようだ。
「姉弟って何よ! 姉弟って! どう見たって、恋人同士でしょ?」
「ええっ? そうっすかねぇ?」
恵令奈の言葉に、哲太が首を傾げる。
「てっちゃん、わかってないなぁ」
プライベートでは、それぞれを『てっちゃん』『恵令奈』『美空』と呼び合う。年下の哲太だけは、二人を『さん』付けで呼んでいるが。
どこで誰が聞いているかわからない為、園外で『先生』は禁句なのだ。外で発する『先生』という呼称は、どうしても目立ってしまう。「〇〇保育園の先生が〇〇で酔っ払ってたよ」なんて噂を立てられたら堪らない。
当然の事ながら、外で仕事の話など以ての外だ。個人情報漏洩で訴えられかねない。
プライベートだからと言って、気を抜いてはならないのだ。
キョトンとする哲太に、恵令奈は諭すように語りかけた。
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