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「ところでさぁ。私のこと、覚えてる?」
注文した品がテーブルを埋め尽くした頃、恵令奈が紫雲に問いかけた。
ジョッキの中は既に三分の一になっている。今日はいつになくハイペースだ。
「覚えてますよ。もちろん」
「えっ? ほんとに?」
思いがけない答えに、恵令奈は瞳を輝かせた。気持ち、身体が前のめりになる。
「よく一緒にお散歩に行きましたよね」
「そう。行った、行った」
「やたら可愛いって言われて……」
「そう……だっけ?」
なんだか、雲行きが怪しくなってきた。
「食べちゃいたいって言われて……」
「はあぁぁっ!?」
美空と哲太が、紫雲の顔を凝視する。
「ほんとに食べられるかと思って、怖かった……です」
紫雲が恥ずかしそうに俯いた。
「恵令奈ぁ……」
「それ、アウトっす」
美空と哲太に責められ、「そんなこと言ったっけ?」恵令奈は人差し指を顎に当て、惚けたように宙を見つめた。
「第三者委員の耳に入らなかっただけでも有難いと思いな」
美空の忠告に、恵令奈はテヘッと舌を出す。
「ちゃんと反省して下さい」
哲太に言われ、「ごめんね」恵令奈は紫雲に頭を下げた。
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