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「いえ。俺もガキだったし……。流石にもう、食べられるなんて思わないから大丈夫です」  紫雲が、さも可笑しそうに笑った。  その姿に安堵したのか、恵令奈は一気にジョッキを煽ると、熱のこもった眼差しで紫雲をじっと見つめた。 「ねぇ。紫雲君って、彼女いるの?」 「えっ……? 何ですか? いきなり」  予期せぬ質問に、紫雲が戸惑いの表情を浮かべる。 「やめなよ、恵令奈。酔っ払ってんの?」 「いいから美空は黙ってて」  美空の言葉を遮ると、恵令奈は再び紫雲に聞いた。 「いるよね? もちろん」 「いえ」 「いえ?」  驚く美空に、「なんだよ?」紫雲が怪訝そうな顔を向けた。 「ふぅん。じゃあ今、フリーなんだ」  恵令奈は頬杖をつくと、瞳をトロンと潤ませた。 「ほんと、可愛い。違う意味で、食べちゃいたい」 「えっ!?」  身の危険を感じたのか、紫雲の身体が、大きく仰け反る。 「ちょっと恵令奈! なんて事……!」 「恵令奈さんっ! それマズイっす!」  二人の制止も聞かず、恵令奈は髪を掻き上げた。  ストレートのロングヘアが、美しく整った顔にはらりと落ち、なんとも言えず色っぽい。 「いろいろ教えてあげよっか?」 「遠慮しときます」  やや被せ気味に断る紫雲に、「即答かっ!」恵令奈が鋭くツッコミを入れた。 「恵令奈さん。次、何飲みます?」  絶妙なタイミングで、哲太が恵令奈の目の前にメニューを広げた。 「てっちゃん、グッジョブ!」  ついでに美空と紫雲もドリンクを頼むと、美空は化粧室へと向かった。
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