13/13

155人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
「美空さん」  席に戻る途中で、美空は紫雲と鉢合わせた。 「あ、紫雲君もトイレ?」 「うん」  心なしか、紫雲の顔に疲れの色が滲んでいる。 「なんか、ごめんね」  謝る美空に、「何が?」紫雲は小首を傾げた。 「だって、恵令奈が……」 「ああ。別に気にしてないよ。ちょっとびっくりしたけど」 「ならいいんだけど……」 「面白いじゃん。あの人」 「そっか。そりゃ良かった」  安心した美空は、「じゃ、先行ってるね」と声を掛けると、紫雲の側をすり抜けた。 「オバサンじゃないから」 「えっ?」  振り返った美空の瞳を、紫雲の真剣な眼差しが捉える。 「美空さんは、オバサンじゃない」 「紫雲……君?」 「それに……」  少しだけ顔を歪ませると、紫雲は苦しそうに言葉を絞り出した。 「母親だなんて……思ってない……」 「え……? それって、どういう……?」  慌てて視線を外した紫雲は、くるりと背を向け、足早にトイレへと姿を消した。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加