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「ほんと、びっくりしました。まさかあんな所でお会いするなんて」 「いやぁ。あの時はかなり酔っぱらってたからね」  当時のことを振り返り、晴斗は恥ずかしそうに頭を掻いた。  あれから二人は連絡先を交換し、何度か食事に行くうちに、自然と男女の関係になったのだ。 「そろそろ息子に紹介したいんだけど……」という晴斗からの申し出に承諾したのが、一週間前。  日曜日は比較的部活が早く終わるという紫雲に合わせ、本日ここに、会食の場を設けたのだった。 「紫雲君も高三かぁ。テニス部でしたっけ? 頑張ってるんですね」 「ああ。もうすぐ引退試合があるからね。今が追い込みらしい」  六月の引退試合を終えると、三年生は一気に受験モードへと突入する。学生も何かと忙しいのだ。 「部活が終わったら次は受験……。大変ですね」 「まあでも、俺たちも通ってきた道だからね。今やれっつっても出来ないけど」 「確かに」  二人顔を見合わせ笑った。  笑うと更に幼く見える晴斗の笑顔を見つめているうち、美空は肩の力が抜けていくのを感じていた。思いの外、緊張していたようだ。 「紫雲君、将来は何に……?」  言いかけた時、入り口のドアベルが涼やかな音を立てた。 「いらっしゃいませ」  店員の「お一人様ですか?」という問いかけを遮り、「待ち合わせで……」という少しハスキーな穏やかな声が聞こえてくる。  入り口に視線を走らせた晴斗が、「あ、こっちこっち」と大きく手招きをした。  店内の観葉植物より頭一つ分高い身長。百八十センチはあるだろうか。すらりと伸びた腕と脚。制服の上からでもわかる、引き締まった身体つき。日に焼けた肌に映える、くっきりとした切れ長の大きな瞳と形の良い鼻。若干大きめな口は、父親のそれとよく似ているが、確か八重歯は無かったはずだ。  通り過ぎたテーブルの女性客が、食事の手を止め振り返った。その後ろ姿に向かって、甘いため息を漏らすのが聞こえた。 「遅くなってごめん。今日に限ってミーティングが長引いて……」  テニスラケットを椅子の背もたれに引っ掛けると、紫雲は晴斗の隣に座った。 「お久しぶりです。美空先生。覚えてます? 俺のこと」  晴斗と同じく目尻に数本皺を作ると、紫雲がにっこり微笑んだ。
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