156人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「で? 式の日取りは?」
同僚の松岡恵令奈にマジックを突き付けられ、美空は思わず仰け反った。
どうやらマジックは、マイクのつもりらしい。
「それ、俺も聞きたいです」
スズランテープを裂く手を止め、竹内哲太が身を乗り出した。
「哲太先生、手、止まってる!」
そのマジックで今度は哲太を指しながら、恵令奈が激を飛ばす。
「あ、はい。すいません」
大袈裟に肩をすくめると、哲太は作業を再開した。
子どもたちが帰った後、三人は美空が担当している年長児クラスのぞう組に集まり、六月に行われる運動会の準備に励んでいた。
遊戯に使うポンポンを作りながら、恵令奈は、先日行われた美空と登坂親子との会食の様子を、根掘り葉掘り聞きだしていたのだった。
「今すぐって訳にはいかないよ。紫雲君、受験生だし」
将来、小学校教諭を目指しているという紫雲は、教育学部のある大学に進学を希望している。受験生のいる家庭に、余計な波風は立てたくない。
「じゃあ、入籍は、紫雲君の受験が終わってからってこと?」
「うん。まあ、そうなるかな」
ポンポンの形を整えながら、照れ臭そうに美空は答えた。
最初のコメントを投稿しよう!