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「お前なぁ……」  紫雲の手にある家の鍵と自転車の鍵を見るなり、晴斗が頭を抱えた。 「だから、ごめんって」 「俺じゃなくて、美空に謝れ」 「いいですって、そんな……」  両手を振って断る美空に、「ごめんね」紫雲が笑いながら小首を傾げた。 「ちゃんと謝れ!」  晴斗が紫雲の頭を押さえつけ、テーブルに押し付ける。 「わーった、わーった! ちゃんと謝るから!」  両腕をバタつかせ、紫雲がもがいた。 「ったく。最初からちゃんとやれよ」  ようやく解放された紫雲は、乱れた髪を手早く直すと、姿勢を正して座り直した。 「迷惑かけて、ごめんなさい」  紫雲が深々と、頭を下げた。 「や。いいって、別に。迷惑だなんて思ってないから」 「ほんとに?」  上目遣いに美空の顔を伺う紫雲の表情に、美空は思わず吹き出した。 「逆に嬉しかったよ。頼ってくれて。それに……。」  困ったようにこちらを見ている晴斗に頷きで応えると、美空は紫雲に向き直った。 「すっごく楽しかったもんねーっ!」 「美空さん……」  美空の笑顔を見た瞬間、紫雲の顔が明るく輝いた。その様子を見て、晴斗の顔にも安堵の色が浮かんだ。 「ほんと、悪かったね」 「いいえ。全然。それより晴斗さん、お腹すいたでしょ? オムライス食べません?」 「あ、うん! 食べる、食べる!」  美空の絶妙な切り返しに、晴斗が子どもの様にはしゃいだ。 「さすが親子」 「え? 何が?」 「何でもありません」  ふふっと笑うと、美空は食事の支度に取り掛かった。
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