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 全てを見透かす様な恵令奈の大きな瞳が、光を集めて煌めいた。  その瞳から逃れるように、美空は少し身を引いた。 「ただ単に、母親に甘えてみたいだけなんじゃ……」 「もしもよ? もしも紫雲君が、美空の事を母親として見ていなかったとしたら?」 「えっ……?」  恵令奈の言葉に、あの日の紫雲が蘇る。 ――母親だなんて……思ってない……。  美空の脳裏に、今までの紫雲の言動が駆け巡る。  紫雲の部屋で誕生カードの写真を見た時に絡んだ視線。  オムライスを食べた後の、思い詰めた様な表情。 「今もまだ……」の言葉の続き。  全く気にならなかったと言えば、嘘になる……。 「もし紫雲君が、美空を一人の女性として見ているんだとしたら?」 「何言って……」  急に喉の渇きを覚え、美空はゴクリと生唾を飲んだ。 「ま、必要以上に親しくしない方が、お互い身の為なんじゃない? 向こうは思春期真っ盛りの多感な年頃だしね」 「ちょっと待ってよ。まだそうと決まった訳じゃ……」 「そうですよ、恵令奈さん。もう少し様子を見てからでも……」  二人に感化され、完全にプラベートモードになったらしい哲太が、恵令奈を『さん』付けで呼び始める。 「そんなこと言って、取り返しのつかない事になったらどうすんの?」 「取り返しのつかない事って……?」 「例えば……。逆に、美空が紫雲君を男として意識しちゃうとか?」 「そんな事……!」 「絶対無いって言い切れる?」 「な……無いよ! そんな事、あるはず無い!」  恵令奈の瞳をしっかりと見据え、美空はきっぱり言い切った。 「ふぅん」  鼻から息を吐くと、恵令奈は腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかった。 「わかった。美空がそこまで言うなら信じよう」 「恵令奈……」
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