156人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただし」
人差し指をピンと立てると、恵令奈は眼光鋭くピシャリと言った。
「万が一そうなった時は、真っ先に私に相談する事」
「何で?」
「そりゃもちろん、あんたより私の方が得意だからよ。この手の話」
「な、なるほど……」
妙に納得した美空が、恵令奈を見つめて頷いた。
「あのぉ……」
突然哲太が、おずおずと右手を挙げた。
「何?」
二人の視線が哲太に集まる。
哲太の目は、真っ直ぐ美空に向けられていた。
「最悪、俺って手もありますが……」
「はいっ?」
美空の茶色がかった瞳が丸くなる。
「二十七歳独身。彼女なし。そん中じゃ俺、最優良物件だと思うんすけど」
「はあぁぁ? あんた何言ってんの?」
眉間に皺を寄せ、恵令奈が哲太に怪訝そうな目を向けた。隣の恵令奈を一瞥した後、哲太は美空に向き直った。
「もしもの時は、俺が屍、拾ってあげますから」
「いや、死なないし……」
呆れた顔で、美空が答えた。
「あんたって、ほんと馬鹿ね」
恵令奈の言葉に、哲太が「名案だと思ったんだけどなぁ」と首を捻る。
「ありがとう。ジョーカーとして大切に取っとくよ」
美空がにっこり微笑んだ。
「やめときな。本気にするから」
「ええーっ? 割と本気だったんすけどねぇ」
「ばっかじゃないの?」
「あははは」
恵令奈と哲太のやり取りを見て、ようやく美空に笑顔が戻った。
「あ! やばい! 終礼の時間!」
恵令奈が時計を見て慌てて席を立った。
「ほんとだ! 行かなきゃ!」
続いて席を立つと、「てっちゃん! 行くよ!」美空は哲太に声を掛けた。
「あ、ちょっと! 待って下さいよぉー!」
急いで筆記用具を搔き集めると、哲太も二人の後を追った。
最初のコメントを投稿しよう!