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「ただし」  人差し指をピンと立てると、恵令奈は眼光鋭くピシャリと言った。 「万が一そうなった時は、真っ先に私に相談する事」 「何で?」 「そりゃもちろん、あんたより私の方が得意だからよ。この手の話」 「な、なるほど……」  妙に納得した美空が、恵令奈を見つめて頷いた。 「あのぉ……」  突然哲太が、おずおずと右手を挙げた。 「何?」  二人の視線が哲太に集まる。  哲太の目は、真っ直ぐ美空に向けられていた。 「最悪、俺って手もありますが……」 「はいっ?」  美空の茶色がかった瞳が丸くなる。 「二十七歳独身。彼女なし。そん中じゃ俺、最優良物件だと思うんすけど」 「はあぁぁ? あんた何言ってんの?」  眉間に皺を寄せ、恵令奈が哲太に怪訝そうな目を向けた。隣の恵令奈を一瞥(いちべつ)した後、哲太は美空に向き直った。 「もしもの時は、俺が(しかばね)、拾ってあげますから」 「いや、死なないし……」  呆れた顔で、美空が答えた。 「あんたって、ほんと馬鹿ね」  恵令奈の言葉に、哲太が「名案だと思ったんだけどなぁ」と首を捻る。 「ありがとう。ジョーカーとして大切に取っとくよ」  美空がにっこり微笑んだ。 「やめときな。本気にするから」 「ええーっ? 割と本気だったんすけどねぇ」 「ばっかじゃないの?」 「あははは」  恵令奈と哲太のやり取りを見て、ようやく美空に笑顔が戻った。 「あ! やばい! 終礼の時間!」  恵令奈が時計を見て慌てて席を立った。 「ほんとだ! 行かなきゃ!」  続いて席を立つと、「てっちゃん! 行くよ!」美空は哲太に声を掛けた。 「あ、ちょっと! 待って下さいよぉー!」  急いで筆記用具を搔き集めると、哲太も二人の後を追った。
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