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「この間は悪かったね」
ミートソースパスタを一口頬張り、「うまい」と満足そうに頷いた後、晴斗が美空に謝った。
「いえいえ。ほんと、気にしないで下さい。とっても楽しかったんですから」
美空はフォークとスプーンを皿の上に置くと、顔の前で両手を振った。
先日迷惑をかけたお詫びにと晴斗が誘ってくれたイタリアンの店は、新規オープンのせいか連日満席で、多くの客で賑わっていた。
二人で頼んだマルゲリータを一切れ皿に取りながら、「あいつは……」晴斗が話を切り出した。
「紫雲は、生まれた時から母親がいなかったから、愛情不足っていうか……」
「そんな事……。晴斗さんだって一生懸命……」
「違うんだよ」
皿を置くと、晴斗は溜息を一つ吐いた。
「美空もわかってると思うけど、父親と母親の愛情は違う。父親は……俺は、どう頑張っても、母親にはなれないんだよ」
「晴斗さん……」
「だからって訳じゃないけど、あいつはどうも、甘えん坊な所があって……」
晴斗はマルゲリータを一口かじった。
「やっぱり父親じゃあ、思うように甘えられないのかも知れないな……」
言い訳かも知れないけど、と、晴斗は寂しそうに笑った。
「こんな事言ったらあれだけど……」
マルゲリータを水で流し込むと、晴斗は手を組んで大きく息を吐いた。
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