156人が本棚に入れています
本棚に追加
「実は前に……。紫雲がまだ小学生の頃……。一度だけ、再婚話が持ち上がったんだよね」
「そう……なんですか……」
周囲の喧騒が遠のいていく。
美空はナプキンで口を拭くと、晴斗の話に耳を傾けた。
「でも……。いざ対面って時にあいつ、会いたくないって駄々をこねてね……。あの手この手で頑張って、何とか二回程合わせる事に成功したんだけど……」
一旦言葉を切り、晴斗は小さく首を振った。
「どうやっても紫雲の心を開くことができなくて……。結局、向こうから断られちゃったんだよね」
「そうですか……」
膝の上のナプキンを何度も手で撫でながら、美空は小さく相槌を打った。
「流石に俺も怖気づいてさ。それ以降は断ってたんだよ、そういう話。だってそうだろ? 俺と紫雲は一心同体なんだ。あいつが受け入れられないものは、俺も受け入れられない」
「一心同体……」
「でもね」
晴斗の口調が変わった。目尻に数本皺が寄る。
「美空の話をした時、あいつ、嬉しそうに笑ったんだ」
「えっ?」
「会いたいって……。あいつ、会いたいって言ったんだ。瞳をキラッキラさせて……」
「紫雲君が……?」
「あいつのあんな顔、久しぶりに見たよ。まるで、欲しかった玩具をようやく手に入れた時の子どもみたいな目で……」
その時の状況を思い浮かべているのだろう。晴斗が嬉しそうに目を細めた。
最初のコメントを投稿しよう!