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「実は前に……。紫雲がまだ小学生の頃……。一度だけ、再婚話が持ち上がったんだよね」 「そう……なんですか……」  周囲の喧騒が遠のいていく。  美空はナプキンで口を拭くと、晴斗の話に耳を傾けた。 「でも……。いざ対面って時にあいつ、会いたくないって駄々をこねてね……。あの手この手で頑張って、何とか二回程合わせる事に成功したんだけど……」  一旦言葉を切り、晴斗は小さく首を振った。 「どうやっても紫雲の心を開くことができなくて……。結局、向こうから断られちゃったんだよね」 「そうですか……」  膝の上のナプキンを何度も手で撫でながら、美空は小さく相槌を打った。 「流石に俺も怖気(おじけ)づいてさ。それ以降は断ってたんだよ、そういう話。だってそうだろ? 俺と紫雲は一心同体なんだ。あいつが受け入れられないものは、俺も受け入れられない」 「一心同体……」 「でもね」  晴斗の口調が変わった。目尻に数本皺が寄る。 「美空の話をした時、あいつ、嬉しそうに笑ったんだ」 「えっ?」 「会いたいって……。あいつ、会いたいって言ったんだ。瞳をキラッキラさせて……」 「紫雲君が……?」 「あいつのあんな顔、久しぶりに見たよ。まるで、欲しかった玩具(おもちゃ)をようやく手に入れた時の子どもみたいな目で……」  その時の状況を思い浮かべているのだろう。晴斗が嬉しそうに目を細めた。
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