9/13
前へ
/212ページ
次へ
「あの時は、お見苦しいものをお見せして……」  恥ずかしそうに頭を掻く晴斗の脳裏にも、あの日の出来事が浮かんでいるのだろう。  いえいえ、と俯く美空の顔を、「え? 父さん、何かやらかしたの?」と紫雲が不思議そうに覗き込んだ。 「何でもねぇよ」  軽く頭を小突かれ、「ってぇなぁ、クソ親父」頭を抑えながら、紫雲が晴斗を横目で睨んだ。 「もう、止めなって」  すっかり見慣れた光景に、美空が大きくため息をついた。  初顔合わせの時の爽やか好青年は何処へやら、紫雲は見かけによらず、かなり口が悪い。  美空に対しては、未だに礼儀正しい姿勢を崩さずにはいてくれているが、父親には暴言吐きまくりだ。  しかしまあ、一般的な高校男児はこんなものかも知れないと、美空は自身に言い聞かせる。  きっとこれは、彼なりの愛情表現なのだ。  女姉妹(きょうだい)しかいない美空には、理解に苦しむところだが。 「ほんと、仲良しだよね」 「どこがだよ」  少しむくれながら、紫雲はケーキを頬張った。耳が赤くなっていることは、本人には内緒だ。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加