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Ⅲ
「やっぱり母親にはなれないのかなぁ……?」
「ん? 何か言った?」
ご飯茶碗を見つめ盛大にため息を吐く美空の顔を、晴斗が心配そうに覗き込んだ。
「いえ。何でもありません」
食器棚の扉を閉めると、美空はにっこり微笑んだ。
いつまでもお客様用茶碗を使っている美空に、「そろそろ美空専用アイテム置こうよ」と言う晴斗の提案のもと、今日は二人でショッピングに出掛けて来たのだ。
紫雲はテニス部仲間と一緒に、朝から図書館で勉強だ。少しは受験生の自覚があるらしい。
買って来たおニューの食器を並べていると、美空の脳裏に昨日の紫雲の言葉が蘇ってきた。
ーー母親だなんて……思ってない……
紫雲は確かに、そう言ったのだ。
あれは、美空は母親の器ではないという意味なのか。それとも、この世で母親は、実の母親ただ一人だということなのか……。
一晩考えても、答えは出なかった。
二人の物とは違う女性ものの食器たちが、美空の目には、異質な存在に映る。なんだかまるで、二人の生活を邪魔しているみたいだ。
「それ片付けたら、お茶にしようか」
晴斗の優しい笑顔が、美空の不安を包み込む。
「はい」
笑顔で返すと、美空は、散らばっている包装紙を片付け始めた。
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