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 夏祭りから暫く経ったある日。  美空が帰り支度をしていると、突然紫雲からLINEが入った。 『美空さん!』 『へるぷ!』 「何これ?」  たった二つのふきだしに、美空はスマホを持ったまま固まってしまった。  とりあえず『どうしたの?』と送ってみると、間髪入れずに『チャリの鍵がない』と送られてきた。  若者の送信速度は速い。まるで、若者専用の特別回線があるみたいだ。 『今どこ?』 『塾』  いよいよ焦ってきたのか、紫雲は八月から塾の夏期講習に通っている。苦手な国語と英語を克服するためだ。  塾は、駅前にある。 『とりあえずバスで帰れば?』 『やだ』『たるい』『つかれた』  紫雲お得意の、甘ったれ三連投だ。 「ったく……。最近の若者は……」  美空は盛大にため息を吐いた。 『どうすんの?』 『迎えに来て』  光の速さで送られてきたメッセージに、これが言いたかったのかと、美空はようやく理解する。 『晴斗さんは?』 『遅番』  晴斗は市役所に努めている。窓口業務もある為、遅番と早番がある。遅番の時は、早くても八時頃にしか帰って来ない。 『しょうがないなぁ』  結局最後には美空が負けてしまう。  天然タラシ、恐るべし。
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