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Ⅳ
夏祭りから暫く経ったある日。
美空が帰り支度をしていると、突然紫雲からLINEが入った。
『美空さん!』
『へるぷ!』
「何これ?」
たった二つのふきだしに、美空はスマホを持ったまま固まってしまった。
とりあえず『どうしたの?』と送ってみると、間髪入れずに『チャリの鍵がない』と送られてきた。
若者の送信速度は速い。まるで、若者専用の特別回線があるみたいだ。
『今どこ?』
『塾』
いよいよ焦ってきたのか、紫雲は八月から塾の夏期講習に通っている。苦手な国語と英語を克服するためだ。
塾は、駅前にある。
『とりあえずバスで帰れば?』
『やだ』『たるい』『つかれた』
紫雲お得意の、甘ったれ三連投だ。
「ったく……。最近の若者は……」
美空は盛大にため息を吐いた。
『どうすんの?』
『迎えに来て』
光の速さで送られてきたメッセージに、これが言いたかったのかと、美空はようやく理解する。
『晴斗さんは?』
『遅番』
晴斗は市役所に努めている。窓口業務もある為、遅番と早番がある。遅番の時は、早くても八時頃にしか帰って来ない。
『しょうがないなぁ』
結局最後には美空が負けてしまう。
天然タラシ、恐るべし。
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