シロ

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 晴れ渡っていた空に灰色の雨雲が立ち込めてゴロゴロと音をたてる。西の空はまだ晴れていてオレンジ色に染まっているが、東の空は暗く夕立が近づいて来る事を告げた。僕は『シロの家』と書かれた犬小屋の中に入ると尻尾を丸めて入口の隙間から空を見た。 ポツポツポツ。  大きな雨粒が犬小屋の前にある土に叩きつけられて跳ね返り、濡れた土の匂いが僕の臭覚を刺激する。僕は飼い主の未来君がまだ帰って無い事を心配した。未来君は確か今日、お母さんと夏祭りに行くと言っていた。 ゴロゴロゴロ。  雷の音がだんだん近くなる。僕は頭を垂れて犬小屋の中に身を隠した。 ピカッ、  閃光が走り、僕はビクッとなる。未来君も怖がっているに違いない。大丈夫だろうか。そう思っていたら、お母さんに守られるように未来君は綿あめを持って帰って来た。 ワン、ワン、ワン。 僕は嬉しくて尻尾を振って喜ぶ。雨の中、小屋から飛び出した。 「ダメだよ、シロったら、濡れちゃうよ」 未来君は後ずさりする。 「ふふふ、シロったらお留守番していて寂しかったのよ」 お母さんが笑って僕の頭を撫でる。 「ああ、ビショビショじゃない」 ワン、ワン、ワン。 僕は尻尾をグルグル回して濡れた土の上を飛んで撥ねた。白い毛が土で汚れて茶色くなる。 「ああ、後で洗ってあげなくちゃ」 未来君が渋かった顔を緩めて笑う。ウーン、でも僕身体洗われるの苦手なんだよな。 ピカッ、ゴロゴロゴロゴロ。 「うわあ、怖い」 未来君がお母さんに抱きつく。 いいな、お母さんってどういうものなんだろう。 僕は赤ちゃんの時ここに貰われて来たから、お母さんの温もりを知らない。僕が感慨深く空を眺めているとお母さんが 「雷が鳴るとシロが家に来た日の事を思い出すわ」と言った。 僕はキョトンとして顔をお母さんの方へ向ける。 「シロが貰われてきた時も雷が鳴っていた夏なのにひんやり涼くなった日だったの。そうしたらひんやりしていた家庭が温かくなってね。お母さんシロを大事にしなくちゃって思ったわ」 そうか、そうだったんだ。 「シロ、後で身体洗ってあげるよ」 僕はワンと鳴いて尻尾を振った。
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